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32.Side.神楽 洋平と……

Auteur: 桜立風
last update Date de publication: 2026-07-07 11:47:11

「おいおいおい……これ、素直になって喜ぶどころか、心配するレベルだぞ?」

飲もうと誘ってきた洋平を家に呼んだのは、ちょっと心配な患者がいるからだった。

容体に変化があれば、すぐに知らせるよう当直スタッフには言ってある。

連絡があってもここにいれば移動時間を伝えられるし、洋平を置いても行きやすい。

「でも、可愛いだろ……」

「可愛いけど、こんなにあちこちに貼り付けて……ヤバい奴になってるぞ」

自覚ある?と問いかける洋平に、首を縦に振って答えた。

貼ってあるのは、子供時代の紅の写真。高校、中学、小学校……もっと小さな少女時代の紅もいる。

実家の家政婦が捨てているのを偶然見つけてしまった写真。

1枚1枚じっくり見てみると、数枚の写真の裏には、美しい文字で日付けと場所が記されているものがあった。

そんな写真の紅はだいたい笑顔で、リラックスしているように見える。

けれど、明らかにこわばった表情の紅もいて、そのたびにトオキ屋本店で偶然会った父親を思いだした。

「今になって、すごく後悔してるよ。高校時代、ひどく傷つけたなぁって」

冷蔵庫から缶ビールを出して洋平に渡す。……すぐに食べられそうなものを
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    「……紅さん?ちょっと聞いてるの?」腕をゆすられ、ハッとわれに返る紅。今日は神楽は仕事で、自分だけの休日。専任クラークなのでそういう休日は珍しいのだが、突然やってきた神楽の母親に連れ出された。ここしばらく、先日聞いた亮子の話が頭にこびりついて離れずにいた。神楽に話そうかと思ったが、相変わらず激務の彼に話す時間は見つからず、迎えた休日。今日は従兄弟の片桐光世に連絡してみようと思っていたのだが。そんな休日の朝、突然やって来た神楽の母親。……勝手に鍵を開けて入ってくるのは以前と同じだ。「はい、これ返しに来たわ」おはようもなく、たった今開けるのに使った神楽邸の鍵を差し出される。「……いいんですか?」「いいわよ。恋人ができたら返そうと思ってたんだから」「そういえはこれ、神楽さんが契約結婚している間も持ってたんですね……」自分の時もそうだが、その前の2人の時も。……神楽は合鍵の存在を知っているのか。それとも知ってて忘れているのか。挨拶なく始まる会話は、朝からディープだ。「神楽が家を出て、長い間交流はなかったから。でも今回は鳳凰総合病院の娘との結婚があったから、迷わず使わせててもらっただけよ。……ほら、行くわよ」「……は」まだパジャマ姿で家事の途中の紅に、義母は早く着替えるよう追い立て、その間に残りの家事を済ませてしまった。「え……すごいですね」早いだけではない美しい家事に脱帽する紅。その手を引き、義母はなぜか外へと彼女を連れ出した。「ちょっと待ってなさい。今うちと契約してるタクシーを呼ぶから」「え、今からですか?だったら中で座って待ってればいいのに。意外と段取り悪いですね?」「あなた……私みたいに毒舌ね?」まぁ見てなさい、という義母。どこかに電話をかけ、無理難題をふっかけた。「二階堂です。長男の自宅前。2分で来なさい」広い通りから入り組んだ道を入ったところにある神楽邸……2分で到着はまず無理だ。ところが……明らかにスピード違反の黒塗りのタクシーが、家の前に到着したのは5秒前。ドライバーが慌てて運転席から出てきて、2人を後部座席に乗せる。金持ちのわがままにつき合わされて気の毒に。「……それで、どこへ行くんですか?」「決まってるじゃない。式場の下見よ」さらわれるように連れ出された紅は、義母に手を引かれ、都内のラグジュアリー

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    「あ……神楽さん」「紅、帰るぞ」いつから後ろにいたんだろう……いつになく不穏な雰囲気に息を呑んだ。「ちょっと待って、話はまだ終わってないんだけど」大人しくついていこうとする紅を見て立ち上がる芹沢。その手が彼女の腕にかかるのを目ざとく見つけた神楽は、次の瞬間拳を振り上げた。……ゴフッという鈍い音と同時に吹っ飛ぶ芹沢。紅は声にならない声を上げ、目を見開いて両手で口元を押さえる。「汚い手で触るな。俺の妻になる女性だ」こんなに怖い顔をした神楽は初めてだ……さっき芹沢に言った言葉には理由があったが、何も知らずに聞けば怒っても仕方ない。「ごめんなさい、神楽さん。これには理由があって……」「どんな理由があったとしても……」神楽は紅に顔を向けながら、頭にそっと手をやる。「誰かが君に触られるのを冷静に見ていられない」その表情があまりにせつなく歪んでいるので、どれほど傷つけたかとギュっと拳を握る。「……ちょっと待てよ」店内は混んではいないが人の目はある。殴られて床に転んだ芹沢を、スタッフが助け起こした。「いくら妻になるって言っても、まだ妻じゃないんだから……」「ごめんなさい芹沢専務。今の話は亮子に頼まれて、カマをかけたんです」「……カマ?」神楽が殴り返されたら大変だ。紅はとっさに彼の前に出て、自分よりずいぶん大きい男を背中に隠す。「結果は……亮子に伝えます」「……ちょっと待って、さっきの話は嘘ってこと?他の男も知りたいって……」「嘘です。……私は神楽さんだけ知れたらもう満足です」後ろで神楽がピクリと動いた。「携帯番号も変えると思うので、もう連絡はお控えください。……これまでいろいろと、ありがとうございました」ペコリと頭を下げ、神楽を押して出ていこうとする紅に、芹沢は呆れたような笑い声で送った。「そういえば言おうと思ってたんだが……」振り向くと、さっき一緒に座っていたテーブルに1人で座り直し、芹沢は残っていたワインを自分でグラスに注いでいる。「トオキ屋本店、続々と出店が決まったぞ」「……え、」「銀座松白屋を皮切りに、都内の主要デパート、東京駅のビル、店舗も出店するらしいな」それは、紅がミューゼルホールディングスに所属していた時から囁かれていた話だ。担当を私にするとか……それを気にしながらも、商社であるうちに関係ある話で

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  • クズなハイスペ夫を改心させたのはもっとクズな私です   67.バトルとまさかのその後

    「お金目当てだって認めるの?……なんて人なのかしら」紅の前に進み出る加弥乃。その表情に、隠さない嫌悪がありありと浮かんでいる。「神楽さんと結婚したら、それは当然ついてくるものです。いくら欲しい……?と聞かれたので、その人生で手にするであろうすべての稼ぎ……つまり、一生ついていくという意味ですわ」にこやかに言いきった紅を、神楽が頬を染めて見下ろしていることに、本人は気づかない。「逆に加弥乃さんは?どうして神楽さんとの政略結婚を承諾したんですか?」「そんなの、決まってるでしょ?……鳳凰総合病院の娘として、今後の病院経営を円滑に進めるために、」「それより、神楽さんの外見に惹かれたんでしょう?」ずばり言い切る紅に、加弥乃は一瞬言葉をなくした。「でも……外見だけの男ですよ?私の前に2度も契約結婚をして、その妻たちをいいように利用した、筋金入りのワルですから」「ずいぶんな言い方をするじゃないか。血がつながってはいないが、私は一応神楽の父親なんだが?」院長に目を向けると、すぐそばに座っている母親の口元が緩んでいることに気付いた。……神楽をけなす私の言葉に笑った……?「父親にしては、神楽さんを利用しようとしてるみたいですけど」臆することなく言い返す紅に、眉間のシワをさらに深く刻んで、院長は隣にいる母親の肩に手を乗せた。「それなら産みの母親だって同じだぞ?私が提案した政略結婚を、彼女は反対するどころかどんどんやれとけしかけて来た」「それは、神楽さんのためだと思ったからです。きっと」……ここからは想像でしかない。鳳凰総合病院と合併したら、その院長にするとでも聞いたのではないだろうか。そう口にした紅の考えを、院長は視線を外すことで答えた。「ここに来て、院長と再婚したことだって、ある意味神楽さんのためだったと思います」「それは……私が利用されたと言いたいのか?」「いえ、愛情があったから再婚したのだと思いますけど……」一旦言葉を切ってみると、院長は険しい表情で妻を見た。神楽の母親は余裕の笑顔を返している。「これは……1本取られたんじゃないですか?二階堂院長」鳳院長は笑いながら立ち上がり、紅の肩にポンっと手を置いて、居場所をなくした娘を連れ、帰って行った。「……鳳凰総合病院を逃がした!これがどれほどの損失か、神楽先生……わかってますか?」「正直

  • クズなハイスペ夫を改心させたのはもっとクズな私です   66.いざ、出陣!

    「……それって、もしかして」「もしかして?」「いや……俺を、誰にも奪われたくないとか、仲を認めてもらいたいとか……」視線を外しながらそう言って、最後に撫でてもらいたいワンコのような目で紅を見つめる神楽。……そういうわけじゃなくて、という紅の言葉に、見えない耳が垂れてしまったのがわかる。「ただ……神楽さんを親の自由にされたくないと思うんです。これまでだって世界を勝手に変えられて、今になってまた、この先の人生を決められるなんて許せないです」口元を引き締めて言う紅の顔は怒っている。それを見て、逆に口元をほころばせ、神楽は彼女の頭を優しく撫でた。2人はまだ、この先に大きな罠が仕掛けてあるとは思わずに、二階堂邸へと向かった。「……ん?来客か?」車を停める前から異変に気付く。広いガレージに車を停めようとして、そこに見覚えのない車が先に停まっていた。先に来ているとしたら誰なのか考えたらしい神楽。……まさか、という思いにたどり着いたのか、何も言わずに紅を見る。考えていることは何となく分かった。けれどもし、その通りだったとして、私が一緒に行くことを伝えなかったのは、逆に良策だと思った。少しトラブるだろうが、一気に解決できるかもしれない。もちろん、すべては神楽次第だけど。「神楽さぁん……お待ちしてましたぁ」玄関のドアが開く音を聞きつけたらしい、いつかの若い女性が飛び出してきて、神楽に抱きついた。凰総合病院の令嬢、鳳加弥乃。……やはりそういうことか。まさかと思ったことが現実になりそうだ。紅はドンピシャで読みが当たり、つい笑ってしまった。その瞬間、加弥乃と目が合ってしまったのはまずかったかもしれない。「……あなた、いつかのおばさんじゃない?!」甲高い加弥乃の声を聞きつけ、神楽の母親が姿を見せた。私を見てもあまり驚かないようだけど……?「神楽さん、お父さまと鳳院長がお待ちよ」後のことは自分で説明しなさい、とでもいう態度……。「わかりました」神楽は腕を絡ませる加弥乃の手をほどき、紅の背中に手を当ててリビングへと向かう。「……待って。その女はいったい誰なの?この前も現れたわよね?!」「皆の前で説明するから」落ち着いて言う神楽に反論できず、加弥乃は声高に何やらまくし立てた。「いったい何ごとだい?……加弥乃の声は甲高くて耳が痛い」「ご

  • クズなハイスペ夫を改心させたのはもっとクズな私です   7.再会

    「英語は大丈夫だけど……」『じゃあ歌ってみる?ラバークラブMiAってガールズバーなんだけど』「うん。期間は?」『まずは一晩、2回ステージ。バラードを歌ってほしいみたいよ』亮子はクラブやBARの起ち上げやプロデュースをする仕事をしている。その関係で、こういうバイトの情報が早い。亮子が関わった店なら大丈夫だろう……その日の夕方、紹介された店に行ってみた。「亮子さんに聞いてます!まずは一曲、聞かせてもらえますか?」面接は歌のみ。難なく合格をもらった。手渡された衣装はシルバーグレーのシンプルなドレス。ヘアメイクはプロが入ってやってくれた。呼ばれるまで待機するよう言われ、若い女の子た

  • クズなハイスペ夫を改心させたのはもっとクズな私です   6.紅の生い立ち

    「紅か……?」神楽との契約結婚を終え、まず向かったのは実家だった。「……お久しぶりです」手を止めず、顔も向けずに返事を返す娘に、父はわかりやすくイラ立つ。「はんっ!久しぶりに来たと思えば……なんだ?泥棒のマネごとか?」「お母さんの服を取りに来ました。そろそろ暑くなるので」「お前は、口を開けば母さんのことしか言わないな?」……あんたが口にしないからだ。今日も、ギリギリのところで言葉を飲み込む。父と言い争ってスッキリした事など一度もない。むしろ逆……怒りと悲しみ、そして絶望。父は昔から、私にそんな感情しか教えなかった。「……多分、今回持ち出せば、この家からお母さんの私物はなく

  • クズなハイスペ夫を改心させたのはもっとクズな私です   5.Side神楽 謎の女、紅

    「君が契約結婚を引き受けたのは、俺への復讐か?香織と同僚だったってことは、当時から俺の話を聞いていた?」「香織さんは、別れた夫とセフレ関係になってつらいって言ってました。だから契約結婚を終えてからの相談ですね」「俺と出会ったのは偶然?……それとも探し出して、」ずいぶん話が意外な方向へ行くので……らしくもなく、動揺していた。それにまさか、梨沙子のことも知っているとは。「香織さん、夫の名前は伏せてましたよ。でもある日酔った勢いで「神楽」って名前と医者だって漏らして。あの料亭で出会ったのは偶然です。めずらしい名前だったからピンと来たんですよね」紅はソファから立ち上がり、携帯に表示される

  • クズなハイスペ夫を改心させたのはもっとクズな私です   4.契約満了

    「荷物、それだけだったか?」やがて、契約満了の日。見せつけるようにスーツケースを転がし、神楽の目の前に置く。「はい。このお宅にはすべてそろっていたので、ありがたく使わせていただきました」枕、毛布、シーツ、バスタオル、バスローブ……「引っ越し先の住所を教えてくれたら送るよ?使い慣れたものは手放したくないだろ?」「……あなたはそうかもね」使い慣れた契約妻を、今も時々美味しくいただいてる。「……え?」「……使わせてもらった枕、抱きしめて寝てくれません?私のことを思い出して」不思議そうな顔に作り笑いを返した紅に、今度は驚いた顔をするので、本気で吹き出してしまった。「冗談ですよ!

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